要点

  • 2006年から12年間続いた『海街diary』(吉田秋生・小学館)は漫画史上に残る傑作である。
  • 物語の舞台が鎌倉・極楽寺である理由は、四二年前のテレビドラマ『俺たちの朝』へのオマージュであることは間違いない。
  • 偶然に導かれて極楽寺で共同生活をすることになった男女三人が暮らす家の外観、メンバーの一人の出身地である金沢との重要なつながりなど多くのシーンにそれはあらわれている。

2006年から12年間続いた『海街diary』(吉田秋生・小学館)が2018年12月に完結した。

是枝博和監督が2015年に映画化し、1年後にテレビ放映されたものを無然見て感動。翌日にそれまで出ていた六巻までを手に入れて読んだ。

漫画史上に残る傑作である。

10代から20代になる頃に読んだ『河よりも長くゆるやかに』には勇気付けられたことを思い出すが、本作もその延長線上にある「親に捨てられた子供たちの成長物語」である。

しかし、複雑でスケールの大きなこの作品はあらすじだけではとても伝えきれない。誰を主人公に置いても成り立つ群像劇のため要約を拒む物語となっているからだ。登場人物たちが織り成す人と人との縁は、結ばれたりほどかれたりしながら、まるで織物が織られてゆくように様相が次々と変化し進んでゆく。

物語の背景であるはずの鎌倉の自然、気候、習俗、食べ物といったものがいつの間にか浮かび上がってきて主役となっていることにも気付く。

作者が絶妙の塩梅で繰り出すギャグもまたシリアスな物語の潤滑油として、漫画という表現フォームでしかできない重要な役割を果たしている。

物語の舞台が鎌倉極楽寺である理由は、42年前のテレビドラマ『俺たちの朝』へのオマージュであることは間違いない。

偶然に導かれて極楽寺で共同生活をすることになった男女三人が暮らす家の外観、メンバーの一人の出身地である金沢との重要なつながりなど多くのシーンにそれはあらわれている。

ドラマの中で三人の若者たちはそれぞれ家族の問題を抱えている。一緒に暮らしていくうちにお互いになくてはならない存在となってゆく。それは性の介在しない、友情を土台とした疑似家族的な関係である。まったく新しい価値観の提案がそこにはあった。

家族という制度的な関係を超えて人と人とのつながりをどのように真摯に考え生きてゆくか。そのためには、コントロールできると確言したところで運命に対して抗うことも必要である。

壊れた家族のなかで取り残された異母姉妹たちが互いを必要とすることに気付き行動を起こす。そして、それぞれの運命を少しずつ切り開き変えていった2年半の軌跡は、だからこそ感動を呼ぶ。

運命に抗うことは実際には難しいが、私たちはその意志を持つ人を見守り寄り添うことができる大人にならなくてはならない。そうしなければ、「すず」も「アフ口店長」も新たな旅立ちはできないのだから。