要点
- ウィルキー・コリンズ『月長石』は、1868年に書かれた世界初の長編ミステリ。いかにも19世紀といった古臭い表紙。約800頁で、登場人物の手記のみで構成。
- 5月の連休中に荻窪のささま書店(マニアの間では著名な古書店)で発見。300円で売られていたのでこれも何かの縁と購入。
- ミステリという枠の中で、そして手記という形式の中で、それぞれの登場人物は、フリーフォームの小説よりも輝いているように思えてならない。
1868年に書かれた世界初の長編ミステリ。いかにも19世紀といった古臭い表紙。約800頁で、登場人物の手記のみで構成。本棚探偵・喜国雅彦氏は学生の頃に挫折。しかし初版から半世紀以上過ぎても版を重ね、新刊書店で今でも売られている。という本書がずっと気になっていた。これほど厚く面白くなさそうな本が外国ミステリの棚にずっと置かれていることが自分にとっての謎だった。
5月の連休中に荻窪のささま書店(マニアの間では著名な古書店)で発見。300円で売られていたのでこれも何かの縁と購入。挫折するかと思って期待せずに読み始めたところ全く逆だった。最初から最後まで面白い。もう一度読んでもいいぐらいだ。
作者は英国の国民作家ディケンズの親友であり若いころは互いに影響を受けた仲である。そのためかディケンズ同様、人物の描写が際立っている。特に手記の大半を占める執事のキャラは相当なものだ。困ったことがあるといつも『ロビンソン・クルーソー』の該当ページを探して解決策を考えるといった、そこはかとない英国的お笑いの要素がそこここにちりばめられている。
また、医師の助手の手記の部分は、外見での差別を受けながらも人間や生に対して最後まで真摯であり続ける態度に心打たれない人はいないだろう。
ミステリという枠の中で、そして手記という形式の中で、それぞれの登場人物は、フリーフォームの小説よりも輝いているように思えてならない。しかし、もし自分が半分の年齢だったならばおそらく挫折したのではないかとも思う。
冷静に考えてみると、喜国雅彦氏が40代で再読して楽しめたように、これは人生の半ばを過ぎてしまった者だけが楽しめる本かもしれない。